▼書籍のご案内-序文

針灸手技学

王 序

 悠久の歴史を有する針灸療法は,中国医薬学の中で重要な位置を占めており,古くから国内で隆盛を極めたばかりでなく,海外にも広く伝播しているものである。癰を破るのには必ず大小のヘン石を必要とし,金針で病を治すには必ず調気治神をはからなければならない。『黄帝内経』では何よりもまず刺針補瀉の理を論じており,そこには徐疾,迎隨,開闔,呼吸などの補瀉法に関する諸文字がすでに登場する。宋・金代以降,刺針治療における手技が重要視されるようになり,席弘,張元素,陳会,凌雲,徐鳳,汪機,高武,李梃,呉昆といった優れた針灸家が陸続として世に現れ,それぞれ,その手技には長ずる所が見られた。明代の万暦年間,浙東の楊継洲は『衛生針灸玄機秘要』を撰し,楊氏家伝の手技の秘奥をすべて明らかにしたが,さらに後にそれを拡充し歴代の刺針補瀉法を広く集めるとともに,問答の体裁を借りて経絡迎随の是非得失を論じ,刺針手技に関する大作『針灸大成』一書を書きあげている。
 刺針手技は非常に重要なものであるにもかかわらず,各家の手技が一致せず,さまざまな流派が輩出して互いに自己の正当性を唱えて争ったので,人々の目には刺針手技を学ぶことが何か空漠としてなかなか手の出しにくいものに映じてしまった。そのため,今日に至るまでその分野の研究者がほとんど存在していないのが現状である。
 清代の李守先は針灸の難しさを論じたところで「難しさはツボにあるのではなく手技にこそあるのだ」と指摘したが,実に至言というべきである。
 私は多年にわたって針灸の研究にかかわってきたが,刺針手技を継承発展させなければならないと常々,考えていた。それゆえ,私の妻陳克彦副主任医師が刺針手技の研究に専門的にとりくむことを支持したのである。彼女の研究は初歩的成果をおさめたが,さらに研究が進む過程で,惜むらくは急逝してしまった。
 今日,陸寿康,胡伯虎両先生が刺針手技の古今の文献を系統的に整理し,『針灸手技学』一書を編纂した。本書は詳細で確実な資料にもとづく豊富な内容を簡単明瞭で要点をつかんだ文章表現で示し,さし絵も優れており,針灸の臨床家・教育者・科学研究者にとって貴重な参考書となるであろう。
 本書の出版が刺針手技の学習と研究に与える有益性に鑑み,広範な読者諸氏に本書を推挙し,これをもって序とする次第である。

王 雪 苔
1988年12月 北京にて


黄 序

 針灸医学は中華民族の貴重な文化遺産の1つである。『霊枢』9針12原には,「病を治すのに,単に薬やセン石を用いるだけでなく,毫針を用いて滞った経脈を通じさせ,血気の調和をはかり,経脈における気血の正常な運行を回復させたいと思う。同時にこの治療法を後世に伝えるためには,刺針の方法を明らかにしなければならない……」と記されている。『黄帝内経』の時代から始まり形成されてきたわが国の医学の中にあって,針灸医学は外に治を施して内を調える独特の治療法である。刺針手技とはとりもなおさず刺針治療における操作技術である。私が針灸の臨床にたずさわってすでに50年がたつが,その中で刺針手技は治療効果を高める上で重要な要素であることを深く体得してきた。
 病の深浅に伴い刺法には浮沈があり,症の虚実にしたがって補瀉に手技が分かれるように刺針手技の運用は,臨床における弁証と密接な関連性をもっている。金元代から明代にかけて刺法に対する幾多の流派が輩出し,簡単な操作から複雑な操作まで種々の名称が付せられたが,それぞれ一長一短でなかなか後学の規範となりえないものであった。
 陸寿康・胡伯虎両先生は古今の各家針法を集約するために,文献資料を広範に捜し求め,各種の刺針手技の理論的源流,具体的方法,臨床応用,注意事項に対して1つ1つ整理を行い,本書を執筆編纂した。発刊の暁には必ずや臨床,教学,科学研究の参考に供し,針灸医学の継承と新たな創造のために貢献するであろう。
 それゆえ,序をもって同道の士に本書を推挙するものである。

黄 羨 明
1988年12月 上海中医学院にて


邱 序

 針灸は,わが国がその発祥の地であり,秦漢以降,現代に至るまでの2000年余りの歴代の医家の絶ゆまぬ努力によって,今や全世界に公認された医学の一角を占めるまでになっている。『黄帝内経』から始まった刺針手技の追求は,現在,100種余りの手技を生みだすまでに至った。刺針手技が良好な治療効果を得る上で果たす役割は臨床上,衆知のことであるが,現代の実験研究を通じて,その科学的根拠も今日,明らかにされている。
 しかし,刺針手技はこれまで歴代の各家の著作の中に未整理の状態で散在したままで,手技を学ぶ者にとって不便この上なかった。そこで中国中医研究院の陸寿康・胡伯虎両先生はこうした状況に鑑み,辛苦をいとわず,仕事の余暇を使って『針灸手技学』一書をしたためた。本書は古今の医学著作の中から刺針手技に関する内容を部門別に分類し,各手技を詳細に述べるとともに,単なる手技の解釈にとどまらず,古きを今に役立てる必要から臨床と結びつけてそれを紹介しており,後学に大きな恵みを与えるものとなっている。私は50有余年にわたって針灸の研究にたずさわり,刺針手技に対しても多大の関心を注いできたので,今,本書を閲読できたことは大いに喜ばしいことであり心が安んずる思いである。
 本書は針灸学術の高揚のために真に寄与しうるに足るものであり,広範な読者諸氏に本書を心から推挙する次第である。

邱 茂 良
1988年12月 南京中医学院にて